ふきのとうに誘われて畑



どこの家も、北側の軒下以外は雪がすっかり解けて 町のいたるところに福寿草や蕗の薹(ふきのとう) が群生している。



ちょうど1週間前、座敷で鑑定の仕事をしていると外から私を呼ぶ声がきこえた。
雪かきのときなど、スンとしていたおばちゃんが私を呼んでいる!よく聞こえないから二重の窓をあせあせと開ける。


「これぇ!気づいてる? 食べごろだからさ、どうかとおもって!カッターある?」と我が家の庭に頭をだす蕗の薹を知らせてくれた。


いまいきます〜!


またあせあせと、木彫していたナイフ と 足元にあった山菜とるには丁寧すぎる藤の籠をもって外にでる。


「んまたぁ…..こんな洒落たもんを…。」


蕗の薹があることは知っていたけれど、初めて知るかのように 採り方・調理の仕方 を教わる。

「嫁がさぁ、けっこう図々しくてさ、先週たくさん摘んじゃったから、あるかな… ほ〜…あったあった。」

おばちゃんの歩みは空き地まですすみ 頃合いの蕗の薹をごつごつした手で摘んではわたしの籠にぽんぽんいれてくれる。
採ってみたいです、と申し出る勇気とタイミングを見失ったわたし。



とうとうおばちゃんの敷地まで及んだ頃、おばちゃんが腰に手をあて奥の荒野を眺めながらこういう。


「ここはね、昔畑だったの。3年前かな… お父さんが亡くなってから、やめちゃって。」




・・・・・。




私、やりたい。畑。



「!!!」



そう、この日にとっての昨日、保育園をズル休みした子どもと「雪なしの」町を散歩していた。除雪が通らなかったオオイヌノフグリが咲いているような小道を、キョロキョロと歩いていく。手入れされていないのか これからされるのかわからない畑らしき場所を発見しては「もったいないな。ここで畑やりたいな。」と呟く。

それに、自作で 熊避けをつくろうと YouTube をここ最近見漁っていた。北海道のヒグマに対する市販のスプレーの主成分はカプサイシン(唐辛子) である。
青森発の身につけるタイプの熊避け『熊をぼる(熊にげる)』は、木酢液(木を燃やした煙の液) +カプサイシン でできている。木酢液を感知した熊やどうぶつたちは、「火事」の恐怖により、そこに近寄らないのだという。

もし今後、畑をやるとしたら木酢液で獣避けをつくることになるだろう。そうでなくとも、冬中住んでいた屋根裏の野ネズミや夏場の虫対策、入浴剤 につかえるだろうと、Amazonのカートに入れていた。



そんな矢先、こういう機会がやってきた。



驚きと興奮でわなわなするおばちゃん。



「ちょっとついてきなよ。靴、大丈夫?」


荒野の中に入っていく。

森につながる荒野。雪の重みで押し花のようになった萎びた草のなかに2-3メートルになる朽ちた木らしきものがたくさんつっ立っていた。この木らしきものは、草なのだそうだ。育ちすぎてこうなった。アカザの成れの果てかな?と私は思った。

ブンっ、ブンっ、と成れの果てをこなれた感じで次々に引っこ抜きながら畑の解説をするおばちゃん。

この畑は自治体のもので、おばちゃんと亡きご主人は、自分たちの畑にプラスして借りていたものだそうだ。結構広い。600坪=60×33 m。


千葉で貸畑を春夏秋やっていたとはいえ、素人の私たちがいきなり600坪を手にかけることは厳しい。就農は現状考えていないし、自分たちが食べたり越冬保存食をつくれる分と少し余るくらいの農作物をつくれれば十分。


50坪 40×4m にしよう、ということになった。


自治体を通すということで、おばちゃんは「中村さんと作戦を練ってくるわ。」と、近所のベテランおじさんのところに行ってしまった。そのおじさんも本職の傍、自分で野菜や米をつくっている。一筋縄にはいかないのだろうか?


すぐにおじちゃんがキャベツをもって私の家を訪ねてきた。
おじちゃん曰く、かつて私のように50坪程度借りたいという人が現れたが、役員のなかに厳しい方がいて、50坪であれ 全体価格 600坪 1万5千円 の賃料をとるというスタンスなんだそうだ。自治体としては、そりゃ全体を「管理」してもらったほうが嬉しい。


ちなみに千葉のレンタルファームは10坪で年間4万円だった。都内だともっとするだろう。ここの畑は 600坪 1万5000円だとして(それでも中村おじちゃん曰く「高い」)、 10坪 年間250円となる..。





そんなわけで昨日は、おばちゃんの立ち会いの中 自治体のお偉いさんと「どこを借りるのか」を決めていた。



「さっき区長さんが言っていた意味、わからなかった?」


わ…わからなかった..です…


畑のリアル事情を知り尽くす年配者と、言葉の裏や示唆を読みとれない私。


好きな場所を決めたらという中で好きな場所に目印をたてると難色を示されやり直し。


この繰り返しで 中村のおじちゃんも巻き込んで 11時に始まって、結局15時近くにようやく仮決めした。ドッと疲れた。



こうして昨日はずっと外にいて、同時に山菜警察をしていたら蓬は芽生えていた。
蓬は天ぷらにして食べるのが一番好き。






小ネギみたいなものがそこらじゅうに自生していて、おばちゃんに「これ食べられる?」聞いたら浅葱(あさつき)だと。根っこの玉が美味しいのだとスコップで採り方を教えてもらった。


家のまわりにはウドが頭を出し、いつのまにかツクシも生えていた。







野生をつぶさに観察して 無料の喜びを享受したい。






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